放熱材まわりの相談を受けている牧野と申します。
熱伝導材料メーカーの技術サービスに12年おり、いまは中小の製造業さんの放熱・塗布工程を手伝っています。
材料を売っていた頃、いちばん多かった問い合わせがこれでした。
「熱伝導率の高い材料に替えたのに、温度が下がらない」
たいていの場合、材料は悪くありません。
厚みが効いています。
熱抵抗は、厚みにそのまま比例する
信越化学工業のQ&Aでは、放熱材の熱抵抗が次の式で示されています。
R = L/λA + Rc
Lは厚み、λは熱伝導率、Aは面積、Rcは接触熱抵抗です。
詳しくは同社の熱抵抗に関するQ&Aにまとまっています。
読み方は単純で、厚みLは分子に乗っています。
厚みが2倍になれば、材料側の熱抵抗も2倍です。
熱伝導率を1.5倍にするのは材料開発の仕事ですが、厚みが1.5倍になるのは、現場では普通に起きます。
同じ材料で、厚みだけ変えた実測値
信越化学工業の放熱用シリコーン総合カタログに、ちょうどいいデータがあります。
TC-Aシリーズは、熱伝導率が同じで厚みだけ4種類そろっている製品です。
| 厚み | 熱抵抗 |
|---|---|
| 0.20mm | 0.75℃/W |
| 0.30mm | 1.20℃/W |
| 0.45mm | 1.70℃/W |
| 0.80mm | 2.60℃/W |
トランジスタ法、TO-3P、印加電力10W、接触面積約2.8cm²の条件での値です(放熱用シリコーン総合カタログ)。
材料は同じです。
違うのは厚みだけです。
0.20mmが0.30mmになると、熱抵抗は0.75から1.20へ、6割増えます。
差はたった0.1mmです。
印加電力10Wの条件ですから、温度差に直すと7.5℃が12.0℃。
4.5℃ぶん素子が熱くなる計算になります。
現場で厚みを決めているのは、塗布量です
ここからが工程の話です。
組み付けたあとの放熱材の厚みを、その場で測る手段は普通ありません。
測れるのは、塗った量のほうです。
富士電機のIGBTモジュール アプリケーションマニュアルには、重量から厚みを逆算する式が載っています。
グリス厚(μm) = 重量(g) × 10⁴ ÷ {ベース面積(cm²) × 密度(g/cm³)}
同マニュアルは、拡がったあとの厚さとして約100μmを推奨しています(第6章 放熱設計方法)。
この式が言っているのは、面積と密度が決まっていれば厚みは塗布量に正比例する、ということです。
吐出量が1割ぶれれば厚みも1割ぶれ、熱抵抗も1割ぶれます。
塗布量のばらつきは、そのまま熱設計のばらつきです。
しかも相手の面は平らではありません。
ロームのアプリケーションノートによれば、パワーモジュールの放熱板には40μmほどの凹凸があります。
薄すぎれば隙間を埋めきれずに接触熱抵抗が増え、厚すぎれば材料そのものの熱抵抗が増える。
狙いの厚みには、上にも下にも外せない幅があるわけです。
2液材料になると、管理項目が一段増える
高性能なギャップフィラーは、2液硬化型が主流です。
現物合わせで隙間を埋められる代わりに、管理するものが増えます。
- 主剤と硬化剤の混合比
- 材料温度による粘度の変化
- ミキサ内の残留と可使時間
- 高充填フィラーの沈降とポンプの摩耗
ここまで来ると、手作業やヘラ塗りで厚みを揃えるのは現実的ではありません。
容積で計量して混ぜて出す装置に寄せることになります。
ナカリキッドコントロールのWEBショールームにある放熱用2液ギャップフィラーの計量・混合吐出のデモでは、高フィラー含有・高比重の樹脂を協働ロボットと組み合わせて扱う様子が見られます。
カタログの数字だけでは、材料がどう出てくるかまでは分かりません。
近い性状の材料で実演を見ておくと、判断が早くなります。
まとめ
熱抵抗は厚みに比例します。
同じ材料でも、0.20mmが0.30mmになるだけで6割増える。
そして現場で厚みを決めているのは、塗布量です。
吐出量のばらつきは、そのまま熱抵抗のばらつきとして効いてきます。
材料の熱伝導率を上げる前に、いま何グラム塗れているかを測ってみてください。
そこが揃っていないなら、材料を替えても結果は変わりません。



