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海外の取引先に日本酒を贈るとき、ラベルとボトルデザインが大事になる話

海外の取引先に日本酒を贈りたいけれど、何を基準に選べばいいのか分からない。
相手は日本語が読めないし、日本酒にどこまで詳しいかも分からない。
そんなご相談を、私はこれまで何度も受けてきました。

はじめまして、贈答品選びのアドバイザーをしている長谷川遼です。
都内の百貨店の外商部で12年間、酒類と贈答品を担当していました。
新潟市の生まれで、SAKE DIPLOMAの資格も持っています。

外商時代、海外のお客様向けの進物を選ぶ場面で、ひとつ気づいたことがあります。
日本のお客様なら銘柄や精米歩合で選ぶところを、海外のお客様はまずボトルを手に取って眺めるのです。

この記事では、海外の取引先に日本酒を贈るとき、なぜラベルとボトルデザインが大事になるのかを、公的な調査の数字も交えてお話しします。
後半では、見た目と「話のタネ」の両方を持っている新潟の銘柄と、渡す前の準備もまとめました。

海外の取引先は、まずボトルを見て判断する

日本酒を贈る側は、つい中身の良し悪しで選びたくなります。
もちろん味は大切です。
ただ、受け取る相手の立場に立つと、少し事情が変わってきます。

日本語が読めない相手にとって、ラベルは「絵」になる

日本人がワインのラベルを見ても、産地や格付けまで読み取れる人は多くありません。
それでも、品のあるラベルのワインをもらえば「良いものをいただいた」と感じますよね。

海外の方が日本酒を受け取るときも同じです。
「純米大吟醸」「精米歩合35%」と書いてあっても、日本語が読めなければ情報としては届きません。
その代わりに目に入るのは、ボトルの形や色、ラベルの書や意匠です。

つまり、相手にとってラベルは読むものではなく、眺めるものになります。
贈り物の第一印象は、ほぼこの見た目で決まると考えておいたほうが安全です。

ジェトロの調査に出ていた「見ばえ・パッケージ」の数字

この感覚を裏づける調査があります。
ジェトロ(日本貿易振興機構)が2016年3月に公表した「日本在住外国人による品目別日本食品評価調査(日本酒)」です。

日本に住む中国・タイ・米国・英国の出身者800人に、母国でお酒を買うときの基準を3つまで選んでもらっています。
日本酒に限らず、お酒全般についての質問である点には注意が必要です。

国「見ばえ・パッケージが良い」を選んだ割合
全体(800人)21.3%
中国22.0%
タイ29.0%
米国18.0%
英国16.0%

全体で一番多かったのは「味が良い」の60.0%で、「品質が良い」の44.0%が続きます。
見た目は5人に1人ほどなので、味より上というわけではありません。

ただ、贈り物の場面ではこの数字の意味が変わります。
自分で買うなら味見をしたり、店員に聞いたりできます。
贈られる側は、開けて飲むまで味が分かりません。
受け取った瞬間に判断できる材料は、見た目しかないのです。

同じ調査のインタビューでは、中国出身の女性から「日本酒はボトルがきれいで日本を感じるラベルなのがいい」という声が出ていました。
米国出身の男性からは「ラベルには漢字を入れたほうが良い」という意見もありました。

海外向けギフトで見ておきたいラベルの4つの要素

では、具体的にどこを見ればいいのか。
外商時代の経験と公的な資料をもとに、4つに絞りました。

  • 英語の表記があるか
  • 蔵や銘柄の物語を一言で話せるか
  • 漢字や和の意匠が「日本らしさ」として届くか
  • 産地の表示(GI)があるか

英語の表記があるか

まず確かめたいのは、ボトルや箱に英語の表記があるかどうかです。
銘柄名のローマ字表記だけでも、相手が後で自分の国で探すときの手がかりになります。

国税庁とJFOODO(日本食品海外プロモーションセンター)は2019年8月に、輸出用の「標準的裏ラベル」と「表記ガイド」をまとめています。
作成の背景として、日本酒の裏ラベルは海外の消費者にとって選ぶ手がかりになる項目が少なく、なじみのない表現が多いと書かれていました。

このガイドでは、味を「Light / Rich」「Dry / Sweet」の2軸で示したり、香りを果物にたとえたりする書き方が勧められています。
贈る銘柄の裏ラベルが日本語だけなら、こうした表現を自分で一言カードに書き添えるだけでも伝わり方が違ってきます。

蔵や銘柄の物語を一言で話せるか

同じガイドには「醸造元の物語」や「製品の物語」という項目もあります。
創業の歴史や名前の由来は、海外の消費者が興味を持つ情報として扱われているわけです。

私の経験でも、海外のお客様に喜ばれたのは「この名前にはこういう意味がある」と一言添えられるお酒でした。
取引先との会食の席で、そのエピソードが会話のきっかけになることもあります。

選ぶときは、贈る側が30秒で説明できる物語を持っているかどうかを確かめておくと安心です。

漢字や和の意匠が「日本らしさ」として届くか

英語表記が大事だと書いたばかりですが、全部を英語にしてしまえばいいという話でもありません。
ジェトロの調査にあった「漢字を入れたほうが良い」という声のとおり、漢字や書は海外の方にとって日本らしさの記号になります。

おすすめは、表は漢字や和の意匠で日本らしさを見せ、英語の情報は裏ラベルやカードで補う組み合わせです。
日本酒造組合中央会は英語で日本酒ラベルの読み方を解説したページを公開しているので、相手に紹介するのもひとつの手です。

産地の表示(GI)があるか

最後は地理的表示、いわゆるGIです。
GIは、産地ならではの品質を国が認めた名称で、ワインでいう「シャンパーニュ」や「ボルドー」と同じ考え方です。

国税庁の酒類の地理的表示一覧を見ると、「日本酒」は2015年12月に、「新潟」は2022年2月に清酒のGIとして指定されています。
GI新潟を名乗るには、国内産米だけを使い、新潟県内で採った水で、県内で醸造から容器詰めまで行うといった条件があります。

ワイン文化のある国の方には、「産地が国に保証されたお酒です」という説明がすっと通ります。
ラベルに「GI」の表示があれば、それ自体が信頼の材料になります。

見た目と話のタネで選ぶ、新潟の4本

ここからは、私の地元の新潟から、見た目と物語の両方を持っている銘柄を4本紹介します。
価格は各蔵の直販ページに載っている720ml・税込の金額で、2026年10月時点のものです。

銘柄(蔵元)見た目の特徴話のタネ価格
錦鯉(今代司酒造)ボトル自体が錦鯉の姿20以上のデザイン賞を受賞6,710円
越乃寒梅 金無垢(石本酒造)白を基調にした品のある佇まい2016年のG7新潟農業大臣会合で乾杯酒に6,600円
北雪 大吟醸 YK35(北雪酒造)専用箱付き佐渡の蔵で、海外のNOBUレストランで扱われている6,050円
真野鶴 万穂(尾畑酒造)桐箱入りIWC2015の日本酒部門でゴールドメダル5,500円

錦鯉は、私が海外向けに一番推しやすいと感じている一本です。
今代司酒造の公式サイトによれば、iF Design Awardやグッドデザイン賞をはじめ、世界中で20以上のデザイン賞を受けています。
魚形の窓がついた専用箱に入れると、錦鯉を「観賞」できるつくりになっています。
新潟が錦鯉の発祥の地だという話も添えられるので、物語には困りません。

越乃寒梅の金無垢は、石本酒造の公式サイトでも海外の方へのもてなしに向くお酒として紹介されています。
派手さはありませんが、格式を重んじる相手や、目上の方への贈り物に向いています。

北雪は佐渡島の蔵で、北雪酒造の会社案内には主要な販路として海外のNOBUレストランが挙がっています。
相手が現地でNOBUを知っていれば、「あの店で出ている蔵のお酒です」と伝えるだけで話が早いでしょう。

真野鶴の万穂は、国際的なワイン品評会であるIWCでの受賞歴があり、桐箱に入っています。
ワイン好きの相手には、受賞歴がそのまま説明になります。

ここで挙げた銘柄を含め、新潟の高級酒をスペック表付きで比べたい方は、新潟のハイエンド日本酒を7本まとめたこちらの記事が参考になります。
ボトルデザインやコンクールの受賞歴にも触れているので、候補を絞り込むときに役立ちます。

渡す前に準備しておきたいこと

良いボトルを選んでも、渡し方で印象は変わります。
外商時代に、お客様へ必ずお伝えしていたことを3つ書いておきます。

英語の一言カードを添える

ラベルの情報を補う一番簡単な方法が、英語のカードです。
長い説明はいりません。
銘柄名、産地、味の方向、おすすめの温度、物語を一言ずつ書けば十分です。

例文を一つ載せておきます。

This is "Nishikigoi," a sake from Niigata, Japan.
The bottle is designed to look like a koi carp, a fish that originated in Niigata.
It has a light and elegant taste. Please enjoy it chilled.

和訳すると「新潟の日本酒『錦鯉』です。ボトルは新潟発祥の錦鯉をかたどっています。軽やかで上品な味わいなので、冷やしてお楽しみください」という内容です。
銘柄に合わせて書き換えて使ってください。

持参するなら運び方と相手国のルールを確かめる

出張先へ手で持っていく場合は、運び方の確認が欠かせません。
国際線では100mlを超える液体を機内に持ち込めないため、四合瓶も一升瓶も預け入れの荷物に入れることになります。
緩衝材でしっかり包み、化粧箱ごとさらに袋に入れておくと安心です。

もう一つ見落としやすいのが、相手国の税関のルールです。
たとえば米国の連邦規則では、非居住者が免税で持ち込める酒類は1リットルまでで、本人が個人で使うことが前提とされています。
贈答用のお酒は免税の対象から外れるので、申告が必要になる場合があります。
国によって扱いが違うので、出発前に渡航先の税関の公式情報を確かめておいてください。

お酒を飲まない相手への配慮

日本酒が好きな相手ばかりではありません。
宗教上の理由でお酒を口にしない方もいますし、体質や健康上の理由で控えている方もいます。
信仰の受け止め方は国や個人によって違うので、ひとくくりに判断するのは避けたいところです。

迷ったときは、事前に現地の担当者や通訳の方に、相手がお酒を飲むかどうかをさりげなく聞いておくのが確実です。
相手が飲まないと分かったら、お茶やお菓子に切り替える判断も、立派な心配りだと私は思います。

まとめ

海外の取引先に日本酒を贈るときは、味と同じくらいラベルとボトルデザインが大事になります。
日本語が読めない相手にとって、受け取った瞬間に判断できる材料は見た目だけだからです。

選ぶときに見ておきたいポイントを、もう一度並べておきます。

  • 英語の表記があるか、なければカードで補えるか
  • 30秒で話せる蔵や銘柄の物語があるか
  • 漢字や和の意匠で日本らしさが伝わるか
  • GIなど、産地の信頼を示す表示があるか

そのうえで、英語の一言カード、運び方と税関の確認、相手が飲むかどうかの確認までできれば、準備は十分です。

一本の日本酒が、取引先との会話のきっかけになることは珍しくありません。
相手がボトルを眺めて「きれいだね」と言ってくれる場面を思い浮かべながら、選んでみてください。